<第2回>和顔愛語
一心敬礼
新緑藍萌える季節となりましたが、皆様いかがお過ごしでいらっしゃいますか、御機嫌お伺いいたします。 さて、今月のお話しは「和顔愛語」。
一般的にはわがんあいご、と読みますが、仏門では(わげんあいご)と読みます。この四字熟語は、仏説無量寿経・注釈版聖典P26に書かれております。また私達僧侶が墨跡などに引用するなど、一般的な語録でもあります。
読者の皆さまはご存知でしたか
この言葉、実は岡埜栄泉上野本店のお店正面入り口に表層され飾られていることを。 その文字は威風堂々稟とし、正に老舗岡埜栄泉の伝統と、商道の真髄を醸し出すに相応しい書で あります。
高名な女流書家の相談のもと、「和顔愛語」の言葉を推奨致しました。5月27日午前7時にこの文字に 「入魂開眼式」をさせて頂きました。六代目岡野代表の心意気が伝わってまいります。たかが「和菓子」されど「和菓子」の日本男児の″粋゛を御覧頂ければ幸いでございます。
さて、その和顔愛語 の熟語ですが
下の句がありまして、「先意承問」せんいじょうもん。と読みます。和顔愛語の意味は、笑みと優しい言葉。先意承問の意味は、相手の気持ちを知り、先に想いを満たす。と言う解説が書かれております。 この二つの言葉の真意は、何れも「やさしさ」ということですね。
仏教では慈悲といい、キリスト教では愛といい、イスラームでは慈愛といいますが、全て、他を思いやる という普遍性があります。 さてさて皆さんはこの言葉どうりの日常が出来てますか、どちらもなかなか難しいことです。
皆さん六波羅蜜という言葉をお聞になったことがありますか、これは仏教の教えを具体化した言葉です。
一に布施(物質的・精神的に奉仕)
二に持戒(戒律を守る)
三に忍にく(耐える、忍耐)
四に精進(正しい行いに励む)
五に禅定(絶えず精神の安定に心掛ける)
六に智恵(正しい洞察力を養う)の六種です。
布施はその第一に上げられておりますね。この布施を分けて「法施」「財施」とし、僧侶が仏の教えを一般に説いて、精神的な恵みを施すことを法施といい、欲人や 壇信徒が寺院護持や仏恩報謝・先祖供養のため、寺や僧に喜捨 することを財施といいます。しかし財施には金品などの物質的な布施だけがあるのではありません。 他が為を思う心、すなわち思いやりや、心づくしで相手に奉仕し、共に喜びを得ることができる布施行があります。それは、眼施・和顔悦色施・言辞施・身施・心施・庄座施・房舎施の七つで、これら七つの奉仕を「無財の七施」と経典に説かれています。
眼施とは、優しい眼差しで相手に接すること。 和顔悦色施とは、常に微笑みをたたえた穏やかな顔が人に喜びを与え、円滑なる人間関係を築くことができる。言辞施とは、慈しみをもった暖かい言葉、これを゛愛語゛とも言い、勇気付けること。身施とは、 身体をもって奉仕すること。例えばボランティア活動など。 心施とは、正しい心の働きにより、人を救い 導けること。庄座施とは、積極的に奉仕をする気持ちと行動力。房舎施とは、雨露などをしのぐことの出来ないような人に住居を開放し、また建立するような社会活動をすること。
皆さんお分かりのことと思いますが
和顔 愛語と言う言葉は、この無財の七施の中の、和顔悦色施の和顔と、言辞施の愛語を組み合わせた四文字熟語だったのですね。 つまり布施の本質はなにも金品だけではなく、優しい笑顔やまろやかな言葉だけでも十分な布施になっていますよ。という意味があったのですね。私は和顔愛語は人が人らしく生きていくための指針ではないかと考えますが、その和を日本国や日本人の根幹に取り入れ、国是国体とまでした人間がこの国にはいたのです。
聖徳太子その人なのです。
聖徳太子は別名厩戸豊聰耳皇子(うまやとのとよとみみのみこ)と称し、7世紀(推古元年四月)父親、 第三十一代用明天皇と、母親、穴穂部間人姫皇女(あなほべのはしひとのひめみこ)との第一子として生誕します。 聖徳太子は仏教を庇護するとともに、その教義も深く理解された最初の王族でした。後後まで日本仏教の祖として広く鑽仰されたのも故なないことではありません。なお、聖徳太子は仏教のみに傾斜していたわけではありません。憲法十七条や冠位十二階には儒教思想の影響がみられます。「和をもって貴し> と為す」「篤く三宝を敬え」といった思想をこの国の御柱とし、日本国の礎を築いた聖人でした。全てを授受しながら独自性の文化を構築した背景には「和」の精神が宿っていたのです。合掌次回は聖徳太子の思想にふれながら日本の国体「和」イズムを考察してみます。
釈 正輪 九拜
釈正輪老師のプロフィール
1959年愛知県一宮市生まれ。正眼短期大学宗教学部禅学科卒業、佛教大学文学部佛教学科中退。梶浦逸外(かじうらいつがい)「臨済宗妙心寺派官長・正眼寺住職師家・正眼短期大学学長」、大森曹玄(おおもりそうげん)「高歩院住職・花園大学学長・鉄舟会師家」、黒田武志(くろだぶし)「横浜善光寺開山・留学育英僧会会長」、李西蓊大宗正(りさいおう)「曹渓宗白羊寺官長・高麗寺官長」の四大老師に師事、禅(臨済宗・曹洞宗)・真言・天台の三宗を兼学する。中部の霊峰高賀山で「千日回峰行」(せんにちかいほうぎょう)を達成、大阿闍梨(だいあじゃり)となり、密教の荒行「入水往生」(じゅすいおうじょう)並びに山岳回峰「六社巡り」を復興、25年間に渡り継続する。しかし形骸化した僧界に疑問を抱き、普遍的根源を求め、世界宗教の聖地巡礼を行う。中でもヨルダン川での洗礼や、イスラームの聖地、マッカ大巡礼は偉業と言われている。更に、マザー・テレサの信仰実践とダライ・ラマ十四世の宗教的覚醒に 触れたことが、宗教活動に大きな変化をもたらした。世界の皇室関係者や国家元首をはじめ、宗教指導者との交流も深く、特にスリランカ大菩提会会長バナガラ・ウパテッサ大僧上とは旧友の仲である。高校で教鞭をとり、天台寺門宗本山布教師等を経る。日本国並び日本人の生き方を提唱、再認識し実践とする日本大僧伽(やまとだいさんが)主宰。教育施設MAO塾経営。NPO希望塾相談役。国際地球環境大学(シンクタンク)文学博士・仏教学名誉博士。
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